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■OriginalTitle : 『ぼくらの気持』 ヒビノアワ
■From : 『ロビンソン・クルーソー』 KATATI.com


鍵は開いていようとも、抜け出すことのかなわない檻の中から、一瞬のうちに連れ出してくれる魔法の道具。

相容れ、交じり合い、一つになることなどけっして無いであろう、他者。その他者との危うい関係性の中で成り立っているこの世界という虚構の中で、自身が生きていく術をあらかじめ与えてくれる魔法の道具。

ボッコちゃん』で自分が見ている世界の欺瞞を初めて予感し、『夏への扉』で人と人の絆を信じ、『野獣死すべし』で信じるものは己だけと知り、『養女』で己の深淵に潜むものを自覚し、『長いお別れ』で友とのあり方を学び、『この人を見よ』で狂気が持つリアルさを信じ、『ファウスト』で自己超越を知り、『人間失格』で頽廃と反逆を確信し、『ボーダー』でこちら側であることを自覚する。

自分は誰なのか?どこから来たのか?どこにいるのか?どこへ行くのか?

それすらもわからなかったであろうあの頃。私はいつだって誰にでもなれ、どこへでも行け、どんな人生でも送ることができた。茫漠と広がる曖昧な世界の中で、揺蕩う小船のように時を超越し、狭間を漂い、境界線を彷徨い続け、一点の灯りを求めた。

私にとっての本とは、そういうものであった。


いつの日からか、手垢のついた現実という甘いささやきの中に溺れ、日常と言う名の下に、気づきも消え、感受性も錆付き、抜け出すことが叶ったと思っていた檻の中へと溺れていた現実。


そこからまた救い出してくれたものも本なのである。

あづま橋


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