生誕祭〈上〉 (文春文庫)
馳 星周
文藝春秋
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感情移入が物語を読む動機であるなら、およそ感情移入なんか欠片もできない人間が出てくる馳星周が紡ぐ一連の物語り群は読むに値しない…はずである。

なら、なぜ読む?(笑)

物語を読む読み手の成熟=登場人物に対する感情移入という呪縛からの開放、物語の本質を手に入れることができるように読み手が成長した、或いは、絶対的に当事者になり得ないが故の通俗的な覗き見趣味的カタルシス?

金の為にオヤジのアレをしゃぶる麻美の行為に倒錯し、何の苦労もしたことのない金持ちのお嬢、早紀に対する麻美の憎悪に共感し、麻美とともに早紀の破滅を望み、優しさが弱さ以外の何物でもない世界にフィットできない彰洋の恐怖をあざ笑い…結局のところ、好むと好まざるとに限らず、己の後ろ暗い魂そのものを物語の中の行為に見出すからこそ、惹かれるんだろうなぁ。

でだ。

馳星周の紡ぐ物語は麻薬みたいなもんで、トリップしてる間は気持ち良いが、抜けた後のバッド感がなんとも…っていう感じなんだけどこの物語はらしくなく読後感の抜けが良く久しぶりの当たりだった。(笑)