新装版 避暑地の猫 (講談社文庫)
宮本 輝
講談社
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“では何が人間を愚かにするのか。それは感情にとらわれた怒りであり、目先にとらわれた狂惑であり、エゴイズムにとらわれた欲望である。” - 避暑地の猫 / 宮本輝

救いようの無い人の愚かさは「悪」でしかないのだが、人はそれを自覚することによって虚無を感じ、その行き着く先に生きるという事の哀切を見出す。修平の行為は、行為としての範疇で愚かであり、人の気持ちを読み違えた事によって生じた結果であるという点では悪であるが、それを自覚することにより虚無的な死を生き、己の愚かさをトレースすることにより己を浄化し、生を生きることを得た。

愚かさを自覚することによる魂の救済を提示した裏側に、愚かさに無自覚な、未来永劫浮かび上がることの無い救いようの無い魂を対比的に暗示することで、生きることの根源を定義している。

プロット、文体、ともにらしくないけど、人が生きるという姿勢に対して向ける、時に冷たく、時に優しく…その愚直なまでの真摯な眼差しは、やはり宮本輝以外の何者でもないなぁ…。